ネットで小説を書いている人間が駄文を連ねる場所。

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「無駄が嫌いと言う人がいるけれど、どこまでが無駄なのかしらね」
 サイトーさんは賢い人であるが、たまにコーヒーを気管に流し込んでしまい、盛大に噴出することもあるお茶目な人でもある。
「無駄の定義ってこと?」
「もう少し狭い範囲ね。人生における無駄というのかしら。要するに、どうせいつかは死ぬんだから、生きていることそのものが無駄という考え方だってあるわけでしょう」
「なるほど、逆を言えば楽しければどんなことも無駄とは言い切れないね」
「デブにしたってそうよ。無駄な贅肉といえばそれまでだけど、世の中にはデブ専だっているわ。その人たちにしてみれば無駄どころか必要なものよ」
 巨乳だってそうかもしれない。母乳は胸の大小には影響しないと聞いたことがある。あの脂肪の塊は、贅肉同様に必要のないものであるにも関わらず、多くの男にとって必要とされている。
「私は大きいわよ。他の部分は細いけどね」
「それは残念だな。僕は小さいほうが好きなんだ」
「……無駄に重いわね」
 その無駄に重いものの所為で肩が凝るサイトーさんだが、困っているのはむしろ僕だ。
 大きかろうが小さかろうが憧れているのに、僕が揉むことを許されているのは肩だけだ。
「……揉めば小さくなるらしいよ」
 無駄とは知りつつ、そんなことを口走っておいた。
 僕も健全な十七歳の高校生だ。無駄口を叩くことに労力を惜しみはしない。


「死に直面したときに本性が出ると言うけれど、大体その直後に死ぬわよね」
 サイトーさんはたまに、財布を忘れて僕からコーヒー代を徴収することがある。
「直面してるからね」
 千円分溜まったら、なんでもひとつ無条件で引き受けてくれるらしい。今のところ、六百円の貸しだ。
「肯定的に捉えるなら、死ぬときぐらい正直に本音でぶつかりたいという清々しさにも見えるわ」
「否定的に捉えたら?」
「情けない姿を晒しても、生き延びたいと強く願う人の強かさが見える瞬間ね」
「潔く死を決意した場合は?」
「根性なしね」
 サイトーさんは死ぬことが嫌いだ。生ある限り人生を楽しみたいと思っているらしい。
ヒャダイン氏のCDが全然売れてないらしい。本人がラジオで嘆いてたとか。
いやまあ、いいんだ。売れる売れないとかは。俺も曲は好きだし、何度もリピート再生してるけどCDは買ってないし。
商売になった以上、こういう結果も仕方ない。

問題はここぞとばかりに叩きに来る連中だ。相変わらずの民度の低さに、本当に世の中にはくだらねえ連中が多いとはかなんでしまう。
他人の不幸は蜜の味というが、一体何が楽しいのかイマイチ理解できん俺には、ああいう行動が本気で理解できん。
そもそも批判内容が的外れで、無理やり批判してるのがおかしい。

「クリスマスを全然楽しめない人間が自棄で歌った」というのがコンセプトとしてあると思うんだ。
だから自棄っぽく荒げた声で歌い、敢えてクリスマスソングを繋いでクリスマスらしさと、実際は楽しみたいのに楽しめない状況を演出している。
内容の痛々しさも、その内容を真剣に考えているというよりも、そういう痛々しさを面白おかしく表現していると言ったほうがいい。
つまり、これは既存の曲のパクりでもなければ、痛い曲と表現するのもおかしい。
そもそも、これに楽曲的な価値があるとか無いとか言うほうがおかしい。ネタなんだよ。ネタ曲で、笑えばOKな曲なんだよ。
無理に叩こうとするから自分たちの民度の低さと、本質を無視したそれこそ痛い発言をカマす結果になってしまう。
百歩譲って馬鹿はいいとして、わざわざ馬鹿を晒すような真似はやめればいいのに。
 ショートショートで似た場面を繰り返す。そういう手法は割とよく見る。
 だったら何故わざわざと思うが、なんとなくやりたくなっただけ。


「痩せたいって言うけど、実は内心で自分は痩せてるって思い込んでるデブが嫌いなの」
 サイトーさんは缶コーヒーを飲みながら、唐突に語り出した。
「デブだと自覚してるから痩せたいって言うんじゃないの?」
 隣を歩く僕は何故かサイトーさんと自分の鞄を両方抱えて歩いている。
「全然太ってないよーとか言われたいから言うのよ。他人に言わせて安心したいの」
「なるほど、奥が深いね」
 サイトーさんは僕の他愛ない感想を聞いてから、一気にコーヒーを飲み干す。
「女は醜い生き物よ」
「男はくだらない生き物かな」
「お似合いね」
「だね」
 僕達の、いつもの登校風景だ。




「世界が百人の村ならば、10人は同性愛者らしいわ」
 サイトーさんは毎朝、登校中に缶コーヒーを飲む。
「38人のウチの教室にも、3人は同性愛者がいる計算になるね」
 僕は朝食のときにコーヒーを飲むので今は鞄持ちに徹している。
「ヤマダとスズキとサトウね」
「決め付けなくても」
「この前、誰に告白されたんだっけ?」
「ヤマダ君だったね」
 男に告白されたのは初めてのことだった。
「スズキさんとサトウさんはデキてるわ」
「詳しいね」
「二人とも私が好きだったのよ。両方振ったら二人が付き合いだしたわ」
「悲しいね」
「そうね。一人余ったヤマダ君が」
 一応、僕とサイトーさんは付き合っている。




「ただしイケメンに限る」
 サイトーさんは缶コーヒーを飲み終えると、すぐに自分の鞄を僕の手から取り戻す。
「有名な言葉だね」
 サイトーさんは物知りを通り越して何でも知っているような気がする。
「別にイケメンに限らないことでも、勝手に限って自虐に走る男が多いわ」
「女性の口説き方のハウツーとかね」
「効果が薄いだけで、有効は有効なのにね」
 果たしてこれは、僕のときのことを言っているのだろうか。
「まさか、女性の落とし方で男を落とせるとは思っていなかったわ」
「確かにイケメンに限らないね」
 あのときのサイトーさんは、イケメンよりずっと格好が良かった。




「男は度胸、女は愛嬌。じゃあオカマとオナベはどうなるの?」
 サイトーさんは夏でもホットの缶コーヒーだ。売っている自販機を探すほうが難しい。
「他人と違う道を選んでいる時点で、既に度胸がある気がするね」
 僕も年中ホット派だ。ただし、家できちんと飲んでくる。
「なるほど、言われてみればそうね。けれど、それだと全員男ね」
「元々男と、男になろうとしている人だからね」
「今日のコウタは冴えてるわ」
「じゃあ、愛嬌はどうなんだろう」
「女なのに愛嬌がない私に言われても困るわ」
「男だけど度胸がない僕に言われても困るね」
 サイトーさんと付き合う時点で、周囲から度胸があると言われたことならある。
 サイトーさんと付き合っていると、彼女に愛嬌があることはよくわかる。