ネットで小説を書いている人間が駄文を連ねる場所。

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「死に直面したときに本性が出ると言うけれど、大体その直後に死ぬわよね」
 サイトーさんはたまに、財布を忘れて僕からコーヒー代を徴収することがある。
「直面してるからね」
 千円分溜まったら、なんでもひとつ無条件で引き受けてくれるらしい。今のところ、六百円の貸しだ。
「肯定的に捉えるなら、死ぬときぐらい正直に本音でぶつかりたいという清々しさにも見えるわ」
「否定的に捉えたら?」
「情けない姿を晒しても、生き延びたいと強く願う人の強かさが見える瞬間ね」
「潔く死を決意した場合は?」
「根性なしね」
 サイトーさんは死ぬことが嫌いだ。生ある限り人生を楽しみたいと思っているらしい。
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「痩せたいって言うけど、実は内心で自分は痩せてるって思い込んでるデブが嫌いなの」
 サイトーさんは缶コーヒーを飲みながら、唐突に語り出した。
「デブだと自覚してるから痩せたいって言うんじゃないの?」
 隣を歩く僕は何故かサイトーさんと自分の鞄を両方抱えて歩いている。
「全然太ってないよーとか言われたいから言うのよ。他人に言わせて安心したいの」
「なるほど、奥が深いね」
 サイトーさんは僕の他愛ない感想を聞いてから、一気にコーヒーを飲み干す。
「女は醜い生き物よ」
「男はくだらない生き物かな」
「お似合いね」
「だね」
 僕達の、いつもの登校風景だ。




「世界が百人の村ならば、10人は同性愛者らしいわ」
 サイトーさんは毎朝、登校中に缶コーヒーを飲む。
「38人のウチの教室にも、3人は同性愛者がいる計算になるね」
 僕は朝食のときにコーヒーを飲むので今は鞄持ちに徹している。
「ヤマダとスズキとサトウね」
「決め付けなくても」
「この前、誰に告白されたんだっけ?」
「ヤマダ君だったね」
 男に告白されたのは初めてのことだった。
「スズキさんとサトウさんはデキてるわ」
「詳しいね」
「二人とも私が好きだったのよ。両方振ったら二人が付き合いだしたわ」
「悲しいね」
「そうね。一人余ったヤマダ君が」
 一応、僕とサイトーさんは付き合っている。




「ただしイケメンに限る」
 サイトーさんは缶コーヒーを飲み終えると、すぐに自分の鞄を僕の手から取り戻す。
「有名な言葉だね」
 サイトーさんは物知りを通り越して何でも知っているような気がする。
「別にイケメンに限らないことでも、勝手に限って自虐に走る男が多いわ」
「女性の口説き方のハウツーとかね」
「効果が薄いだけで、有効は有効なのにね」
 果たしてこれは、僕のときのことを言っているのだろうか。
「まさか、女性の落とし方で男を落とせるとは思っていなかったわ」
「確かにイケメンに限らないね」
 あのときのサイトーさんは、イケメンよりずっと格好が良かった。




「男は度胸、女は愛嬌。じゃあオカマとオナベはどうなるの?」
 サイトーさんは夏でもホットの缶コーヒーだ。売っている自販機を探すほうが難しい。
「他人と違う道を選んでいる時点で、既に度胸がある気がするね」
 僕も年中ホット派だ。ただし、家できちんと飲んでくる。
「なるほど、言われてみればそうね。けれど、それだと全員男ね」
「元々男と、男になろうとしている人だからね」
「今日のコウタは冴えてるわ」
「じゃあ、愛嬌はどうなんだろう」
「女なのに愛嬌がない私に言われても困るわ」
「男だけど度胸がない僕に言われても困るね」
 サイトーさんと付き合う時点で、周囲から度胸があると言われたことならある。
 サイトーさんと付き合っていると、彼女に愛嬌があることはよくわかる。
 僕は小説を書くのが好きだ。
 どれくらい好きかというと、文章を書いているときは三食や睡眠を抜いても全く平気で、授業中だろうと、休み時間だろうと、それこそ食事中や夢の中でさえも書き続けるほどだ。傑作が仕上がったと喜び勇んでいる最中、夢から覚めて唖然とした記憶は山のようにあるし、そのたびに夢の中で書き上げた内容を懸命に思い出そうと悪戦苦闘もしている。
 将来は文筆にて生計を立てるのが夢であり、友人達もみな、お前にはそれしかないと口をそろえて言う。それだけ面白い小説を書くのではなく、本当に小説しか書かないからだ。僕の小説は面白いのか否か。人に読ませたことが無いのでわからない。
 決して恥ずかしがっているわけではなく、まだ完成していないからだ。話として完結はしていても、まだまだ人に読ませるようなレベルに達しているとは思えず、どうしても読ませる気にはなれない。

 そんな僕だが、つい最近、ようやく人に読んでもらいたいと強く思うようになってきた。
 それは、アドバイスや客観的な意見を求めてのことではない。もっと低レベルで、より純粋な気持ちからだ。
 好きな人に。愛する女性に、彼女のためだけに書いた作品を読んでもらいたいと思ったからだ。
 気の利いたプレゼントなどできるほど、僕は世間に聡くない。容姿も成績も運動神経も人並みかそれ以下で、文字を覚えた頃からひたすらに書き続けてきた小説という存在以外に、僕は自分自身を表現しうるものが存在しないだけだ。
 優しくて、明るくて、まるで世界中から愛されているのではないかと思えるほどに美しい人に。彼女を主人公にした物語ではなく。否、それどころか、彼女を登場させることもなく。
 ただ、ただ。彼女のためだけに。彼女が好む登場人物が、彼女が楽しめる内容で、彼女が望むような結末を迎える話に仕上げたかった。
 勿論、単なる御都合主義ではいけない。ときとして彼女をはらはらと不安に陥れ、場合によっては悲しみの涙を浮かばせる必要もある。それは小説が物語であり、物語とは人の感情を先導させるように作られていくものだから、たとえ一時的にでも彼女の意にそぐわない展開を見せることも必要なのだ。
 そう、すべては彼女のためだ。僕が書いた小説が、決して彼女にとって単なる御都合主義の、彼女におもねった内容だと思わせてはいけない。あくまでも、そうとは知らずに「これはまるで、私の為に書かれた話みたい」と思わせなければならない。

 僕は彼女の全てを知りはしない。だから、想像で埋めなければならない彼女の趣味嗜好もある。それに、僕自身の小説家としての信念も曲げてはいけない。僕が彼女のために小説を書くのは、僕が小説しか書けないからだ。その僕が、小説への信念を曲げて書いた物語など、紙くずと同じ値打ちにしかならない。
 彼女の為に、僕が書いた物語。そうでなければ、何の意味も成さないのだ。

 かくして、僕は小説を書き上げた。
 随分と苦労して完成させたが、傑作であるということは疑いようが無かった。
 彼女のことばかりを考えていたので、途中まで失念していた問題が、何よりも厄介だっただろう。それはつまり、彼女に友人が多いということに起因する。
 もしも、彼女がこの話を読み、深く感動して、是非友人にも勧めようと思ったときに、友人達が微妙な反応をしては興ざめである。彼女にそんな思いをさせることなく、むしろ、友人達と一緒に感想を語り合えるような内容が好ましかった。彼女と同年代の人間の多くが共感でき、なおかつ媚びたものにならないようにする必要があったのだ。
 さらに、彼女が家族にも紹介したときのことを考えれば、年代に関わらず楽しめる必要があった。
 さらに。もしも彼女の友人や家族が、さらに他の友人や知人に紹介したとしよう。そうするともう、様々な趣味や好みの人間が楽しめる必要があるではないか。
 ましてや、彼女がこの話を気に入り、幾度も幾度も。歳を重ねた先まで読み返すことなどあれば。
 世代や趣味嗜好だけではなく、時代の流行すら超越した楽しさが必要ということになる。
 それはつまり、人間が根本で。性別や人種や、時代や宗教などで形成されるよりも、もっともっと手前の部分に根ざしたところの話となる。

 先にも書いたとおり、僕はこれらの条件を満たしているであろう小説を書き上げた。
 本当に苦労したのだけれども、やはり先述したとおりに、傑作であった。
 何故、傑作であるのか。その答えは今現在、僕の隣にいる女性に聞けばわかるのではないだろうか。
 世界中から愛されるような美しい人のために。たった一人の為に書いた物語は、どうしてか世界中の人々が愛する本になってしまったけれども。
 世界でたった一人ずつの僕と彼女は、小説では到底御都合主義すぎて話にならない結末の先を、僕達だけのために書き綴っていくのだろう。
なんか口々に「続編!続編!」とか言うので、何も考えずに書いた。
ちょうど、最終回から一時間ぐらいした後の話。

[黒衣続編]の続きを読む
うーん。活躍できないキャラもいたなぁ。
あと、高木の出番が多すぎたのも反省。

だから送るなって言ったんだよ。
今回でとりあえず、盛り上がるシーンはお終い。次回で最終回の予定。
[企画小説「Breakers!」 7]の続きを読む
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