ネットで小説を書いている人間が駄文を連ねる場所。

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 美人は皆、目立つ存在だと思っていた。
 顔の造詣が良く、スタイルも良いのであれば、それだけで目立つ。それは人間が美意識というものを持っている限り、至極当然のことだと認識していた。
 そういう観点からすれば、大峰崎有紀は、実に異例の存在ということになる。

 大峰崎は美人である。
 人の良さそうな丸い瞳に、綺麗な弧を描いた眉。高くもなく、低くもない、すぅっと通った鼻梁に、少し小さめの口。艶やかな黒髪は肩当たりまで伸ばしており、手足も細く、胸もほどよく発育している。
 高校生の女子でここまで完成した美しさを持つ人間は、それこそブラウン管の中か、二次元の中にしかいないだろう。クラスの中では、群を抜いて可愛い。学校全体を見回しても、彼女に匹敵する美人はそうそういないだろう。
 だがしかし、大峰崎は目立たない。それは、目立たない美人という表現があてはまらないほど、目立たないのである。少々ややこしいが、目立たない美人というのは、美人の中だから目立たぬ存在であり、一般大衆に紛れたら、すぐに目立つ。なんせ、美人はオーラが違うのだ。人から可愛いと言われ、ちやほやされながらも、影で嫉妬や羨望と闘ってきた彼女らは、雰囲気が違うのだ。いくら控えめな性格であれども、そのオーラは纏っている。考えてもみればいい。目立たない存在であるはずなのに、美人という感想を与えているのである。これは逆に、そこらの美人よりもレベルが高いことの証明ではなかろうか。
 しかし。やはり大峰崎は目立たない。確かに美人であり、性格も大人しいながらに愛嬌がある。条件で言えば、誰よりも目立つ存在であるはずなのに。
 大峰崎が目立たない理由。それは偏に、彼女の存在感が決定的に皆無であることに尽きる。

 容姿は抜群で、性格も良い。そんな彼女に存在感がない理由は、わからない。いや、考えてはみたのだが、如何せん、彼女の行動は本当に記憶に残らないので、かつての出来事を反芻しようにも、呼び起こすべき対象がないのだ。
 単に平凡なことしかしていない、というわけではないと思う。それだけでも、彼女は容姿だけで十分に光り輝く。かと言って、突飛なことばかりをしているわけでもない。それなら誰もが彼女に強烈な存在感を覚えるだろう。
 兎角、大峰崎は謎が多い。ミステリアスなのではなく、印象に残らないほど存在感が希薄なので、彼女の個性を認識することができない。もしも俺が小説家で、大峰崎を主軸に話を書くとしたら、新たなジャンルだと喜ぶと同時に、何を書いて良いのかわからず、結局は筆を置くことになるだろう。

 ここでまた、諸兄に疑問が生まれてくる頃ではなかろうか。
 大峰崎有紀は、目立たぬ存在であり、徹底的に存在感がない。誰も彼女に注視することもなく、美人であるにもかかわらず、背景のような存在でしかない。
 ならば何故、俺は彼女を美人だと認識して、ここまで注目するのか。
 実は大峰崎が目立たないなどというのは、俺の勝手な解釈であり、本当はきちんとオーラを発する純正な美人である、という考え方ができる。しかし、これに対する答えはノーだ。試しにクラスメイトに大峰崎について尋ねてみたのだが。
「ああ、そんな子もいるな」
「たまに喋るんだが、なんか全然印象にないな」
 などという答えが返ってくる。これはまだマシな部類で、あまり人間自体に興味のないヤツにうっかり尋ねてしまうと、
「そんなヤツ、クラスにいたっけ?」
 という、ひどい反応をされる。

 じゃあ、単純に大峰崎は美人ではないのではないか。そう考えることもできる。そこで俺は彼女の写真(僭越ながらこっそり撮らせていただいた)を、中学時代の友人一同に見せてみたところ、
「すげぇ美人だな」
「アイドル顔負けだね」
「この子、彼女か。いや、そんなはずねぇな。こんな美人がお前を選ぶはずがない」
 という、まったくもって予想通りの回答を得ることができた。三つ目の証言をしてくれた友人は、当然ながら俺の拳骨が見舞われている。
 興味深いのは、翌日に大峰崎の写真を同じ面子に見せたところ、「これ、昨日の子だっけ。あんまり覚えてないんだよなぁ」という返答があったということだ。

 さて、いよいよ謎は深まるばかりであろう。大峰崎は文句なしの美人でありながら、存在感など皆無である。だが、俺は彼女を美人と認識している。
 その理由は、至極単純である。人物を意識するのに、容姿や立ち居振る舞い以外に、もう一つ重要な要素がある。そう、突発的な出来事である。
 出来事――その中でも、俺と大峰崎の間に起こったのは、アクシデントと呼ばれる部類のものだった。それもとびきりのインパクトがあるヤツだ。
 事件は、俺が夜中に宿題を学校に忘れてきたことを思い出したところから始まった。幸い、家と高校は歩いて五分という近さにあるので、俺は上着を羽織り、学校に向かった。暢気な県立高校に宿直などいるはずもなく、管理もいい加減である。裏手の壁を乗り越えれば、後は悠々と職員用の玄関から入るだけだった。
 深夜の自分の教室。それは実に不気味なものだ。がらんとしていて、昼間の喧噪のぶんだけ、静寂がおそろしいものに感じる。
 俺は月明かりを頼りに、手早く自分の机から宿題を取りだした。明日までに仕上げなければならず、忘れると大目玉を食らうものである。しっかりと小脇に抱え、いざ帰ろうというときだった。
 微かに、教室の隅でカーテンが揺れたような気がした。暗くてよくわからなかったが、窓はきちんと閉まっており、本来は揺れるはずのないものである。俺は不意に背筋が凍り、しばらくじっと身構えた。さきほど揺れたカーテンを見据えるが、気のせいだったのか、動く気配はなかった。
 不気味だと思っていて、錯覚を引き起こしたのだろう。少し怖かったので深く考えようとはせずに、俺は踵を返し、教室を出ようとした。だが。
「へくちっ」
 俺のではない、くしゃみの音が聞こえた。随分と可愛らしいくしゃみだった。
 幽霊やお化けの類がくしゃみをするという話は聞かない。泥棒かとも思ったが、こんな田舎の県立高校に盗むものなど何もないし、あんな可愛らしいくしゃみをする泥棒ならば、キャッツアイみたいな女怪盗ということになる。それは是が非でも拝んでおかねばならない。
 今から考えれば、随分と間抜けな理由だとは思うが、幼い頃に見たキャッツアイの再放送が楽しかったのは確かだ。
「誰かいるのか?」
 俺は妙にいそいそと束ねられたカーテンを引いて、その瞬間に固まった。
 大峰崎有紀。クラスメイトで、印象の薄い女。そんな程度の情報しか持ち合わせていなかった人間が、そこにいた。何故か素っ裸で。
 左腕で胸を隠し、右腕で下腹部を隠して、涙目で俺を見上げる大峰崎は、そりゃもう強烈なインパクトだった。月明かりに晒されて、隠しきれない豊かな胸の膨らみが視界に飛び込んでくる。ほとんど印象に残っていないが、おどろくほどに美しい顔が、羞恥に赤く染まっており、フルフルと微かに震えている。あまつさえ涙を瞳いっぱいに溜めているのだから、驚くよりもまず、じっくりと見入ってしまった。
「み、見ないで……」
「え、あ。ご、ごめんッ!」
 かすれるような大峰崎の声に、俺はようやく正気を取り戻し、素早く後ろを向いた。もっとじっくりと鑑賞したいと思うほどに幻想的かつ、下半身に訴えかけるビジョンだったが、見続ける勇気が俺にはなかった。
「えーっと、その、なんだ。風邪ひくぞ?」
 気恥ずかしさやら混乱やらで、俺の口から飛び出したのは間抜けかつ場違いな言葉であった。一体、何故大峰崎が一糸纏わぬ生まれたままの姿であったのかは知る由もないが、とりあえず秋も半ばに差し掛かり、夜に裸というのはさぞかし寒いだろうと思ったのだ。
「あ、あのぅ……相楽(さがら)君、だよね?」
「お、おう。そうだけど……」
「そ、その……た、助けて……くれないかな?」
 一体、何から、どう助ければいいのだろうか。
 とりあえず、人生初の生の女体を見せてもらった礼ぐらいはせねばなるまい。そう思って、俺は「わかった」と言った。
コメント
この記事へのコメント
え、いきなり何!?
連載ですか?
と呟きを一つ。
2009/01/15(木) 22:10 | URL | 月 #CVtSlW3I[ 編集]
なろうに掲載する前に、ちょろっとこっちで掲載しようかとw

まあ、連載すると思いますw
2009/01/16(金) 00:04 | URL | 伊達倭 #-[ 編集]
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