ネットで小説を書いている人間が駄文を連ねる場所。

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 霞(かすみ)と知り合ったのは、大学でのことだ。
 名に似合わず、一見すると強面の偉丈夫。しかも無精髭と煙草のよく似合うハードボイルドテイストの男前で、迂闊に近寄り難い雰囲気を持っている。
 私立の三流大学に入学してまもなく。強力なスポンサーがバックにある小さな大学は、意外と粋な計らいをするもので、基礎演習のクラスごとに一泊懇談会と銘打った親睦小旅行が催され、俺と霞は同じ演習のクラスであった。
 爽やかなるキャンパスライフという夢幻を追うつもりだった俺は、しかし不思議なことにオタクの集団と行動を共にすることになっていた。なんと言うことは無く、俺自身もオタクであったからだ。
 一泊懇談会の会場へと向かうバスで、偶然隣に座ったのはデブで汗っかきの、見るからにオタクだった。あまり人付き合いの得意でない俺は、人の良さそうなこのデブと喋り、気づけばすっかり意気投合していた。
 日本丸という変わった苗字の男で、贅肉を愛嬌と思わせてしまう、不思議な男だった。人懐っこい笑みと、案外爽やかな声が心地よく、会場である山奥の民宿に到着する頃には既に友達と呼べる存在になっていた。

 俺と日本丸。それに、入学式の二日後に顔見知りになった西仲という男の三人が、最初のグループだった。西仲は謙虚で控えめな男だったが、会話の節々からオタク独特の雰囲気が漏れており、類は友を呼ぶという言葉の恐ろしさを肌で感じたものだった。
 さて、肝心の霞であるが、彼と出会ったのは、その一泊懇談会の夕食の後。日本丸、西仲に加えて、さらに五人のオタクが揃ってしまった状態でのことだった。
 オタクが集まると非常にディープな話題になる。つまるところ、知らなければ話についていくことさえできないという状況である。俺は難なくついていくどころか、先陣きって話題を提供する側であった。
 下卑てはいないが、下ネタ含有量が標準よりやや高いトークに興じていたのだが、部屋の隅で、布団に丸まって雑誌を読む一人の男がいることに気がついた。
 一人だけ煙草を吸い、彫りの深い縄文顔をした強面で、近寄り難い雰囲気をビンビンに発しているのである。他人への関心の薄い男なのだろうと思い、俺は放置していたのだが、仲良くなったオタクの一人に、ずいぶんと気さくな男がいた。
 富田林(とんだばやし)という男なのだが、こいつが非常にフレンドリーで、ほぼ初対面のオタクが七人も揃ったのは、彼の驚くほど空気を読まない行動力にある。誰彼かまわずに話しかけて、特に中身のない話を浴びせかけるのだ。鬱陶しいは鬱陶しいが、友達の少ない状況であったので、彼の馴れ馴れしさは思いのほか、人を集めた。人間力に乏しいオタクたちにとっては、彼のような向こう見ずなフレンドリーさが必要だったのだろう。
 そんな富田林であるから、俺たちが関わり合いを避けていた強面の男にも躊躇無く喋りかけた。
「お前もオタク? こっちに来いよ」
 俺が内心で冷やりとしたのは言うまでもない。怒られるぞ、と嗜めようとしたのだが、強面の男は意外や意外。あっさりと富田林の言葉に従って、俺たちのほうにやってきた。
 まさか、この強面の男と親友と呼び合う仲になるなどと、このときは思っても見なかった。

 霞は小心者ではないが、初対面の人間とうまく喋ることのできない内向的な男だった。
 ハードボイルドな、他人を寄せ付けない外見とあいまって、中々他人と仲良くできなかったと言った。
 日本丸をはじめ、集まったオタクはみんな人のよさが売りのような連中であったので、霞を快くメンバーに加えた。俺は面子の中では比較的、他人を信用しない男であり、おそらくは一番、霞に対して警戒心を抱いていた。
 しかし、それも霞の一言がすべてを変えた。
「僕は、絵を描いたりする」
 八人に膨れ上がったオタクだったが、創作系のオタクは俺と霞だけだったのだ。
 俺は小説を。霞は絵を。ジャンルこそ違えど、創作意欲を知る人間というのはその感動を共有できる。結局、半ば徹夜で語り明かした翌朝には、すっかり霞と仲良くなっていた。

「いつか、伊達の小説の挿絵を描いたりしてみたい」
「出版できるようになったら、お前に頼む」

 出会ったその日に夢を語り合った男は、霞だけである。
コメント
この記事へのコメント
大学ってやつに無縁なので、こうゆう大学が舞台の作品はえらい参考になります。

しかしあれですね。あだ名の付けがいがありそうなキャラ達ですね。とんで・・・いや、富田林くん。
2009/02/10(火) 20:16 | URL | イルク #-[ 編集]
九割ぐらい実話ですぜw

大学は、もうそれぞれの大学でぜんぜん違うみたいですけど、母校は小さかったのが逆に幸いして友達ができやすかったみたいです。

ちなみに、富田林は現在では仲間内での稼ぎ頭&出世頭というさりげなく凄い男だったりします。
2009/02/11(水) 00:25 | URL | 伊達倭 #-[ 編集]
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